あまりの人気と孤高の芸人としてのミステリアスな部分が、いろいろな掘り下げられ方をするのかもしれません。
その割には同じ芸人で、この人は渥美清のフォロワーだな、と思える人がいないようにも思えます。
まあ、比較されるのはやぶ蛇になるのでしょうが。
沢山の渥美清本というか寅さん本がありますが、本書はなかなか読み応えがありました。
渥美清の作られ方、育ちから語られます。
学歴詐称(本書によると)。Wikipediaにも中央大学中退と書かれていますが、実は小学校しか出ていません(だそうです)。
貧乏ではありますが、両親共インテリ層であり、夭折した実兄も秀才であったようです。
そして、病気から学校の勉強について行けず、グレて本物のヤクザになったあと、テキ屋にもなります。
任侠と新農の両方を経験しているのです。
寅さんシリーズ珍しいシリアス路線(?)の「男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎」で、客演に東映ステゴロNo.1とも言われた渡瀬恒彦を向こうに回して格上の雰囲気を漂わせていたのもうなずけます。
兄が秀才であった事実は、「男はつらいよ」第一作の冒頭ナレーションでも出てきます。
渥美清はリアル寅さんであったようですね。
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本書では渥美清の話芸の素晴らしさにスポットを当て、繰り返し称賛しています。
もちろん、それはその通りで今更言うまでもないことなのですが、ボクは常々それに加えて渥美清一流の所作が加わると思っていました。
これは軽演劇のキャリアから来ているものなのでしょう。
軽演劇出身共演者の森川信や佐山俊二にも同じ匂いは感じるのですが、渥美清はとりわけ品が良く粋を感じます。
例えば、何気ない所作なのですが、何かひらめいたような時に自分の右手の甲を左手の平に小気味よく打ち付けて「パチッ」と音を立てる。実はコレが好きでボクは密かに真似したりしてるのですが。
こういう細かな動きを話芸と併せて行う所が比類なき渥美清の芝居だと思います。
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イラストを南伸坊が担当しているのですが、控えめで良い感じです。
普通、渥美清の似顔絵というと、自他共に下駄と形容する四角の輪郭なのですが、今回南伸坊は丸顔というか、曲線で書いています。でも、確かにこれは一番元気だった頃の寅さんだなあと感じさせる良い絵だと思いました。