梁石日の父親がモデルらしいのですが、どこまでがフィクションなのか、あるいはほぼ事実なのか。小説の持つリアリティとしては、もはやどちらでも良いのかもしれません。
ページを破ると血と内臓が出てきそうな、そんな小説です。
この長さで、良くこれだけの登場人物と大小のエピソードをぎゅうぎゅうに詰め込んだものです。
登場人物名について、ロシア人ほどではないですが、朝鮮名では誰が誰だかわからなくなります。
描かれる視点が状況によって変わっていき、主人公が誰なのか、誰の視点で感情移入すれば良いのかという点にも、読んでいて翻弄されます。
誰か一人を主人公に、というのであれば、やはり父親・金俊平でしょう。金俊平が大きな幹となり、全てを突き破る邪悪で粗暴な巨木の周りに身内や周辺の登場人物たちが否応なく巻き込まれていきます。
この主人公の特異性は、国籍や時代にはあまり関係ないでしょう。今の時代にどのように生きていけるかは分かりませんが、どの時代であっても社会に適合できることはないと思います。
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読んでいて思い出したのが、「じゃりン子チエ」。
作者の梁石日と、はるき悦巳はおそらく同じ空気をある程度吸っていたのではないでしょうか。
大阪市の生野区と西成区。
かまぼこ屋とホルモン屋。
又、「じゃりン子チエ」には「男はつらいよ」に対して相似性を感じます。さくらを主人公に大阪を舞台にした「男はつらいよ」。ずっとそんな気がしてました。
テツに対するのは寅さんです。
一方、こちらの「血と骨」の主人公・金俊平は”リアル・テツ”という感じ。
生まれつき粗暴で、偏狭な価値観を持ち、金に汚く、ヤクザもビビって逆らわない一匹狼。
違うところはテツは女性に対して極端に純情である(ここは寅さんと一緒)のに対し、金俊平は強姦などもなんとも思わない鬼畜の性欲モンスター。
この点はテツとは大きく異なります。
遠慮せずに言えば、本作の主人公には一片の共感も持ち得ないし、まさに唾棄すべき人物ではあります。
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読後にはなんとも言えない感情が残ります。
できれば、是非とも読んでもらいたい小説なのですが、内容や表現があまりにもリアルで、作中にも度々使われる表現「汚穢」が、形而上形而下にこれでもかと描かれます。耐性のない人には辛いかもしれません。