先日読んだ武田惣角伝「惣角流浪」と対を成す作品かもしれません。
ほぼ同年である武田惣角と嘉納治五郎。
かたやオリンピック競技にもなり、古流から見事にスポーツに進化した講道館柔道と、正反対の道に深化していった「大東流合気柔術」。
ともに、幕末から明治にかけて武道に命を掛けた創始者(創始者というには惣角は?かもしれないが)であり、この二人を真っ向から対峙させれば、まさに「刃牙」的ワールドが広がるのだが、史実はそれを許しません。
互いに接点はありますが、小説として盛り上がるほどのものではない。
そこで、講道館四天王の一人、「姿三四郎」のモデルでもある西郷四郎がこの小説の主役です。
西郷四郎と武田惣角は同郷であり、互いに近しい間柄でもある。
というか、兄弟弟子のようでもあります。
題名の「山嵐」を武器に連戦連勝に青年の苦悩を絡めてとなると、「姿三四郎」になりますが、この西郷四郎は一路柔道に邁進するわけではありません。
大陸へ馬賊になるべく、東京に出てくるのです。
しかし、やはり武道家としての血が騒いで・・・いろいろと。
作者はあまり、扇情的な筆使いをしません。
唯一、中国に渡ったときに戦った李書文(!)とのアクションがくるくらい。
読後感として、四郎ははこれで満足だったのかなあと・・・。
凡人としては一抹の寂しさを覚えます。
武道家として、又新聞人として、燃え尽きたとは思うのですが、両方が軸足で、満足のいく働きだったのか、人生だったのか。
いや、これは西郷四郎という偉人としてはということですが。
明治の初年。この時代、いろいろと面白そうです。