「カトウワタルの本棚」カテゴリーアーカイブ

読書レビュー:三匹のおっさん


いかにもとっつきやすいタイトル。

裏切らないとっつきやすさ。

設定や展開があまりにも期待どおりに進んでいくので、少し小賢しく感じていたのですが、なんだかんだ言ってうまいよね。プロフェッショナルだよね、エンターティンメントだよねという感じに変わって行きました。

「恋愛小説の女王」というキャッチフレーズがあるそうです。そういえば「阪急電車」も超アマアマな内容で、勘弁してほしいところも多々ありました。

本書もそのようなスパイスならぬシュガーとミルクが効いています。読書視線を高校生カップルのフィルターを透しているので、最初は主役だったおっさん達が最終的には狂言回しになってしまうので、結局そうなんかい!という感じ。

おっさんの読者としは、少々不本意かも。

この、ゴールデンタイムのテレビドラマのような(久しく観てないのでわかりませんが)感じだけれども、問題提起も忘れておらず、イジメやサイコ犯罪などを事件として展開させていくあたりはさすがです。

これらをおいしいやさしいソフトでポピュラーな小説として仕上げている所はすばらしい。

読者の裾野を広げることにより、自然と目を背けそうな社会問題をアピールしていく。良質な小説だと思います。

私の好きなテレビ版「ナニワ金融道」も同じ意味で優れていたと思いますが、これは又改めて。

読書レビュー:大阪 下町酒場列伝


奈良生まれ、豊中住みのルポライター、井上理津子さんが紹介する「ぐるなび」登場以前の酒場紹介。

あんまりこだわりはない。

「吉田類の酒場放浪記」的な・・・。

10年ほど前の本なので、すでに閉店したお店もちらほら。

しかも、店主の年齢がかなり高いお店が多いので、店の存続以前に店主が健在であるかどうかが心配。

先述しましたが、「ぐるなび」や「食べログ」ではない、プロの手になる飲食リポートです。

しかし、吉田類さんににしても井上理津子さんにしても、「酒場」というわりには、それほど酒に拘らないような気がします。

井上さんはまだ、銘酒を色々挙げて説明してるので良いのですが、それでもトリビー的なノリで。

(日本)酒・焼酎は銘柄のうんちくなど語るのですが、ビールはやっぱり「トリビー」的な扱い。

それがボクとしては少し残念。

最も、居酒屋や普通の飲み屋に行って、店員に「ビールはなんですか?」と聞いても答えられない場合が多いしね。店側からしてそうなんだから仕方ないか。

アサヒスーパードライには金を払いたくないんです。それだったら第三のなんとかの方を選ぶ。

「ぐるなび」などと決定的に違うところは、料理よりも店の歴史や店主の人となり・魅力なりを紹介しているところ。

これはやはりプロの手になるものでしょう。

煙と宴会の嬌声などが充満しているところは苦手ですが、ふらりと一人で寄りたい店が多数紹介されています。

現在も営業中の店を探して内容が本当なのか確かめに行きたくなる本です。

読書レビュー:首代引受人


平田弘史自体は昔から知っていました。

ただ、単行本がほとんど流通していないので、あまり目に触れる機会もなく。

そして、以前に古本屋で立ち読みした時に、あまりのエグさにビビってしまいました。

いろいろと古今東西の映像作品を見渡せばグロいのは沢山あるんだけど、やはり日本人としての「血」に訴えるものがあり、それは横溝正史の小説にも通底するものがあると感じます。(ハリウッドの「300」はCGながらエグかったね)

そう言えば、松竹映画版の「八つ墓村」の落ち武者惨殺シーンも結構グロかった。

本作も少々エグいので、読者は選ぶでしょう。

最初の一編が読み切りで、その設定を膨らませてシリーズ化されたもののようです。

その最初の一編ではただの登場人物でしかなかった「首代引受人」が、椿三十郎や拝一刀的な凄腕の剣豪になり、よりエンタメ化したシリーズとなります。

笠を取ったシーンが一切なく、顔が見えないので、次元大介にも見えてきます。

圧倒的な画力は、絵の巧さデッサン力という次元ではなく、先述したような作者の情念がほとばしるような生命感に溢れています。

読者と真っ向対峙するというか、挑戦してきます。

読み手も受け止めるだけのパワーを要求される。

そういう意味で、やはりメジャーにはなれないでしょう。

そうかと思うと、平田先生は古くからのマカーで、Macintoshで絵を書いていたこともあるらしい。

あと、筆文字が素晴らしく、「アキラ」や「シグルイ」なんかのタイトルも担当しているとのこと。

機会があれば、是非その他の作品も読んでみたいと思います。

読書レビュー:暗渠の宿


最近、西村賢太がテレビによく出ているようだ。

最も、youtube等Webでしか観ていないが。

この人、歳は下だが本当に現代の人だろうかと思ってしまう。

妙に古めかしい難解で独特な言葉遣いも特徴的です。

作品や言動が大時代というか、リアルに昭和初期風価値観で不自然なく出来上がっているよう。

この間テレビに出ていた人で、大正から昭和初期にかけてのファッションや生活品で暮らしている女性がいましたが、そのような取って付けたような感じではなく、芯から社会に迎合せず、半ば世捨て人的な感じを受けます。

最も、それなりに確信的に演出クサイ言動もかいま見えますが。

芥川賞を取った時の有名なセリフに「そろそろ風俗に行こうと思ってます」というのがありました。これなども端的に生活や人となりを表してはいるのだろうが、多少の演出もあるように思う。

笑っていいともに出た時の動画も見た。ていうか、出すなよと(w
(関係ないけど、お昼のNHKに園子温がゲストだった時も引いたが)

その時のひな壇芸人との駆け引きも多分に自分のイメージを作った答えだった。

一言で言うとかなり「クズ」ですね(w いいともでもクズ振りをアピールしているようなので。

読み始めて最初に感じたのが、「暴力的なつげ義春」。

両者に似通った赤裸々な描写ですが、どうも、つげ義春ほどそれが作品に溶け込んでいるように思えず、無駄に刺々しさを感じてしまう。

そこが作者を受け入れられるかどうかのハードルになっていそう。

私小説ということで、ほぼ経験から書いているようです。

もちろん、無頼派というか、好感をもって迎えられようなどとは露ほどにも思ってはいないでしょう。

ひたすら粗野(弱者に対して)なんだが、一人称はひたすら「ぼく」。

これはテレビ出演の時も同じなんで、小説と実生活はひたすらシンクロするのだと思います。

作者が傾倒し、没後弟子を自認する藤澤清造の件(くだり)が度々出てくるが、ほぼ知られておらずボクもしらない人なので、そう詳細に語られても困る。

しかし、それが作者の依って立つところであるらしく、書かないわけにもいかないのでしょう。

あとがきを寄せているのが友川カズキ。

この人もつい最近まで知らなかったのですが、偶然に観た映画「IZO」の狂言回し的歌手として本人役で出演していました。

あまり好きにはなれませんでしたが、印象的な歌手です。

これにはなんとも言えない偶然を感じました。

この人が言うには、一発でヤラれてしまい、ハマったとのこと。

ボクとしては、確かに面白いんだが、うーん。という感じですね。

多分、他の作品も同じような感じなのでしょう。

あまり、創作はできないというような事をどこかで言っていたような気もするし。

芥川賞を獲ったのは「苦役列車」。本作を読んだ限りでは、芥川賞???という感じですが、さてどうでしょうか。

「苦役列車」も読んでみようと思います。

読書レビュー:20歳若く見えるために私が実践している100の習慣


飛ばし読み。それで十分。

南雲先生の本はこれで3冊め。確か。特に目新しいことはないみたい。

最初の一冊はしっかりと読んだ。

そして、以来ゴボウ茶を欠かさず飲んでいる。あまつさえ、周りにも奨めている。

ほんと、マジで腸内環境整います。

でも、まあ、それだけかな。

その他はそれほど信用できない。

サイバラ旦那(?)の高須先生が南雲先生にケンカ売ってるけど、面白いね。

本書の最初の方に、「自分はA型でマジメな正確で・・・云々」という記述が出てくる。

一気に醒めました。いや、ヒキました(;´Д`)

医者が言うか血液型がどうとか。

シャレにもならんよ。

もういいわ。南雲先生。

ゴボウ茶教えてくれてありがとね(-_-)/~~~~

読書レビュー:博覧強記の仕事術


「博覧強記」 

この「強記」の部分に常々引っかかってきたような気がする。

どういう意味だ?「キョーキ」。

無意識にひっかかりつつスルーしてきた。

なんとなく意味はわかる熟度だし。

すごーく、物知りなこと。

「博覧」はそうなのだが、後ろに「強記」がついている。こっちはつまり、

すごーく、記憶力が良いということだ。

「博覧強記」と聞いて思い浮かぶのが南方熊楠。

やはり、著者の唐沢俊一さんも初っ端の例に出してます。

それと著者自身も「博覧強記」を体現しているらしいです。

唐沢俊一さんは蔵書家でサブカルの大家というイメージはあります。

あと、唐沢なをきの兄さんですね。

しかし、南方熊楠と並ぶ「博覧強記」かどうかは知りません。

いや、唐沢俊一さんは嫌いじゃないし、知識量はすっげぇと思ってますけど。

その他、えらい自慢話が多いです。

書いている内容はあっち飛びこっち飛びみたいな感じですが、面白い。

例示につかうエピソードもバラエティに飛んでて、「へぇ」ボタンを押したくなるww

トリビア。

でもですね、この本が「仕事術」か?と言われると???

読書によって生活が豊かになる、その指南書ではあります。

読書レビュー:さいごの色街 飛田


「飛田新地」知られているのかいないのか。

関西以外の人(在阪歴長くても)に言っても、特に女性にはマッタク通じない。

単に風俗街と言ってしまうと、タダのハコモノとは明らかに一線を画するし。やはり一言で言い表すとすれば「遊郭」と言わざるを得ない。

そうすると、大方の反応は「えー、現代日本に遊郭なんてあるわけない」というような感じになる。

しかしあるのだ。

道頓堀・新世界あたりはかなり「観光用大阪」になってるけど、新世界から程近いこちらは観光マップには載ってないし、ましてやキャラクターなんかもない。

本書で知ったが、公式サイトに類するものも全く作らないらしい。

その他の風俗はかなり充実したサイトを作ったり宣伝に務めてるけどね。

そんな女人禁制(というのも変だが)の禁断の場所に、12年もフィールドワークを行った力作です。

いつも思うんだけど、こういう取材とかって良い加減な所で発表しないと、先を越される恐れもあると思うんですけどね。

男でも冷やかしだけでは行きにくい所。

実際、かなり筆者も罵倒されたり怖い目にもあったとのこと。

同性から好奇の目(?)で見られるオネエサンの立場も当然理解して臨んでいるとは思うんだけど、最初から最後まで作者のジレンマを感じる。

売買春は当然違法であり、いけないこと。

しかし、必要悪(敢えてこの場ではこのように書くが)としての存在も安易には否定できない。

本書の冒頭ははフェミニストの感情論がにじみ出るような書き出しなので若干「ん?そういう切り口か?」と鼻白んでしまったのであるが、読み進めていくとそのような皮相的な調査ではないことがわかってくる。

多分、平松前大阪市長の仕業だったと思うが、大阪のその手の案内所で一切案内をしなくなってしまった。キャバクラレベルのご案内。

て、言っても、案内所の中のパソコンで検索できると思うんだが。

そんな中途半端な規制をしてどうなるというのか。どういうビジョンで規制するつもりなのか。

管理もせずに規制だけかけるとどうなるのか、思い至らんのだろうか。

当然、裏風俗として地下に潜り、オネエチャンたちが犯罪被害に巻き込まれる可能性が高くなる。

事実に本書のレポートとしてホテヘルで怖い目にあって飛田に鞍替えしたという内容も出てくる。

人類最古の職業とも言われる買春そのものが、そう簡単に廃絶できるわけもなかろうに。

しかし、だからと言って飛田(松島も今里もだが)に問題がないかというと、おおありである。

未だに人身売買の温床になっている側面もなくはない。

その反面、性産業として自発的にポジティブに働いてるオネエサンたちも少なからずいるようだ。

飛田のオネエサンたちになんとか取材を行うのだが、ほんの数人なので、サンプルとしては少なすぎる。

学歴や生まれ育った境遇面で大きくディスアドバンテージを付けられている子達が多いという書き方。

本当のところはわからない。

変な喩えだが、本書はまずいサンドイッチみたい。

3分割すると、真ん中が飛田の歴史が数字などを交えて淡々と書かれている。

本来はこれも面白い内容ではあるのが、それを挟む現在のレポートである前後の内容が面白すぎる。

筆者はボクと同じ豊中市の北部に住んでいると書いている。

駅で言うと桃山台。大阪北部のかなりお上品なところである。

そこから大阪南端の飛田まで通い続けたらしい。

事実なんだから仕方ないけど、どうしても上からになってしまいそうなポジショニングである。事実そのような描写も出てくる。

しかし、そうならないのも作者の人徳か。

なんだか普通のオバちゃんm(_ _)mがドキドキ腰が引けながら取材しているのが手に取るようにわかる。

すぐにぺこぺこ謝るしw。

言いたいことはあるけど、ここは頭下げといた方がいいよな・・・的な。

その割には飛田料亭組合とか、ジャーナリストとかを受け入れないややこしそうなところに食いついて行ったり、なんのコネもなく暴力団事務所に突撃かけたり\(◎o◎)/!、命知らずというか凄い行動力。

本当にページをめくると飛田の空気があふれだすような力作。

飛田新地という遊郭がどうなっていくべきなのか。知っている人も知らない人も、読者がそれぞれ考えていける内容です。

読書レビュー:フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略


2009年に出版されてからかなり時間がたつが、内容と現実に齟齬はない。

FREE(無料・自由)の可能性については、本当にそこまですごいのか疑問は残る。

しかし、フリーミアムというモデルが素晴らしいことは疑問の余地はない。

昨年、大ヒット漫画「ブラックジャックによろしく」が無料で公開ダウンロード・二次利用自由ということになった。これがどれくらいの利益をもたらしたのか。

作者のブログ(http://bit.ly/ZpbDhE)によると、他の作品の売上が上がり、新しい仕事もたくさん舞い込んだそうだ。

おそらく十分に一番出汁をとった作品を利用することにより、新しい読者を獲得し利益に結びつける。

ひとまず成功ではあるのだが、どうも未だ実験の域を出ていないような気もする。
モデルとして有効であるならば、追随する者も多く出そうなものだ。

このあたりがひっかかるところ。

本書はハードカバーで352ページ。結構なサイズだけど、紙自体が軽いのか持ち歩くのも全く苦じゃない。

実はこの本を図書館で見かけて、読んでいなかったことを思いだし、読みだすと思い切り引きこまれた。
早速、Kindle版を購入。かつてはデータ版は無料ダウンロードできた時期もあったようだが、現在は有料。でも、紙版の半額である。Kindleの商品の値頃感としては、やはりこれくらいと思うのだが。

整理するためにいろいろと書いたほうが良い「テキスト」だと思うが、これくらいで止めておく。

Kindleで持ち歩いて10回くらいは読んでみよう。それだけの値打ちあり。

読書レビュー:50歳からの起業―銀行員をやめて、メガネ屋さんになりました


飛ばし読み。

用意周到過ぎて、エリート過ぎて「50歳からの起業」って言われても全くシンパシィ感じません。

立ってる地平が違います。

大型電気店のアルバイトから始めてって・・・。

その前に重役待遇で迎えられてるだろうが。

外国人客の対応ができない他のアルバイトの変わりに英語と中国語で対応って、いいけどかなりイヤミなやり口だね。

自慢臭プンプン。

あほらしくて読むのやめました。

読書レビュー:阪急電車


ジモティなので、逆に読むのが遅くなった感じ。寝かしてたというか。

一読して、なんで映画化されたのかが良くわかる。

ていいうか、映画のシナリオみたい感じですね。

阪急電車、正しくは阪急電鉄といい、作品中にも一箇所出てくる。

宝塚駅で連絡する宝塚線沿線に済んでいるけど、今津線沿線に済んだことはないし、あまり行くこともない。

生活ゾーンと初詣沿線なので、それ以外に用事がないし。

「小林駅」を「オバヤシ」と読むと知ったのもかなり最近だ。

この駅も割りと重要な駅として出てくるが、まあ、降りても何もないしね。

「鴨川ホルモー」は京都を舞台にしていながら、京都弁が欠片もでてこない。もぉ気持ち良いくらいに。

この作品もあまり関西弁が出てこない。

関西学院大学の学生も主役なんだが、地方出身者ということで。

その他、ネイティブは数多く出てくる登場人物の中の1/3くらいかな。

マーケットを意識すれば、それも致し方ない。

作者はまだそこそこ若い女性であるので、半ば恋愛小説でもある。

それがまあ、オジサン読者にとってはなんかこっ恥ずかしいんですよね。

それはもう、田亀源五郎とか読んでるよりはるかに恥ずかしい。

かんべんしてほしい恥ずかしさだ。

しかし、これがアレですかね。

今時の草食系の恋愛なんですかね。

別に斜に構えるわけではなく、この理性については素直に尊敬しますが。

自分を振り返って、作中に出てくるヒールのチャラ男とは違う意味で、つくづくクズだったなと。

この人達が正しいのです。あるべき姿なのです。

言い訳すると、ボクらの時代はそれはそれで価値観としてはアリだったとは思うんですけどね。

肉食動物というよりは、本能とピカレスク的価値観がないまぜになったというか・・・。

それは置いといて。

片道15分を往復するという舞台で、なんとも楽しい物語が次々と織りなされていく。

大事件はないけれど。

自分もそうなんだから、今度晴れたらゆっくりと阪急電車今津線に乗りに行きたいなと思わせます。

なんで今津線?とか思ったけど、今津線だからちょうどいいのかな。
阪堺電車ではまた違った切り口になるでしょう。秘密のケンミンSHOW的なww

全国レヴェルで象徴的といえば、タカラヅカなんだけど、特に出てこない。

実際はタカラジェンヌがうろちょろしてたりもするのに。

さて、文庫版あとがきがなんと、故・児玉清。

あの読書人があとがきで手放しで作者と作品を褒めてます。

意外です。