「深夜特急」を読みたいなとは思ってたのですが。
本書を読んでみたきっかけはどこかで読んだ前溝 隆男さんのこと。
国際プロレスのレフェリーだった人です。
国際プロレスはかつて日本のプロレスが3つしか団体のなかったころのマイナー団体。
あまりテレビがつかず、ほとんど観ることができませんでした。
試合自体も近所に来た記憶がない。
ただ、昭和のプロレスファンは馬場派猪木派に分かれてはいても、決してないがしろにできない団体であります。
現在、ある意味プロレスラーの代表みたいに扱われているアニマル浜口も「国際」のレスラーでした。
あと、有名どころではラッシャー木村やストロング小林(金剛)も。
外国人では、カール・ゴッチ、アンドレ・ザ・ジャイアント、ビル・ロビンソンも国際のスター選手でした。
レフェリーも非常に濃い人達を揃えていたと思います。揃えていたわけではないでしょうが、結果的に個性的だったと。
その中にあっては、地味な存在として前溝隆夫さんの名前は記憶に残っていました。
でも、ほとんど忘れられた存在で、今ググってもほとんど情報は出て来ません。
ところが、実はスゴイ人なんですよね。
この人に、ほぼ唯一スポットライトを当てたのが、この中編集に入っている「ガリヴァー漂流」という一編。
もしかしたら、国際プロレスの中でも最もスゴイ経歴の持ち主かも知れません。
戦争中のトンガ王国に日本人とのハーフに生まれたのですが、外見的には縄文人の見本のようで、どこから見ても日本人です。
和歌山県で育ち、中学卒業と同時に大相撲に入門します。
割りと順調な番付の上がり方をするのですが、大した理由もなく若くして引退。
その後、ほとんど経験のないプロ野球に挑戦し、続いてプロボクサーになります。
大相撲力士からプロボクサー。
こんな経歴を持った人、日本のスポーツマンにいるでしょうか。
しかも、ボクシングでもかなりの強さを誇り、ミドル級の日本王者に上り詰めます。
「はじめの一歩」は前溝さんをモデルにしたのではないかと思うほど、気が優しかったようです。
もっと貪欲であれば、その当時の日本ボクシング界に力があれば、竹原慎二以前に世界ミドル級のチャンピオンになれたのかも知れません。
最終的には国際プロレスのレフェリーになるのですが、その時々のエピソードがかなり面白く描かれます。
そして、今回ボクは前溝隆夫さんを描いた小説であることを知っていたのですが、その名前がでてくるのは物語の半分を過ぎてからです。
ほとんど感情移入できないままここまで引っ張ってこれる力のある小説(モノローグ)ではあると思いました。
その他の作品としては最後の表題作「王の闇」。
ジョー・フレイジャーの没落した侘しさを彷彿とさせる佳作です。
「深夜特急・ボクサー編」という感じです。